この記事の結論:どんなに条件のいい空き家でも、相続が未整理で相続人と連絡がとれなければ、購入手続きは一歩も進みません。先日、私がまさにそれで手を引いてきました。
先日、千葉県館山市に住む知人から「面白い物件があるんだけど、見てみない?」と声をかけてもらいました。立地の話を聞いた瞬間、もう胸が高鳴っていました。不動産の話となると、こうなってしまうのが性分でして。
結果から言うと、物件は諦めました。建物の問題ではなく、「相続」という壁で完全に詰まったんです。買う気満々で行っただけに、帰りの車の中は割と静かでした。
この記事では、宅建(宅地建物取引士)試験で学んだ知識と、自分自身で物件を所有・売買してきた実体験をもとに、空き家探しでハマりやすい「相続物件の落とし穴」を、私のしくじりを交えてお話しします。
館山に行ってきた──好立地の7LDK大型物件
物件は千葉県館山市内の、立地が悪くない場所にある一戸建てでした。間取りを聞いてさらに驚きました。7LDKほどあって、1階にも2階にもキッチンが付いている。
二世帯住宅どころか、一族が総出で暮らせそうな規模感です。「こんな物件が地方に眠っているのか」と、期待値が一気に上がりました。
地方の大型物件には独特の面白さがあります。都市部では予算的に手が届かないような広さが、地方では現実的な価格帯に入ってくることがある。館山は東京湾岸に近く、海も山もある地域です。拠点として使えると思い、気持ちだけは完全に前のめりでした。
玄関を開けて、一瞬固まった
いよいよ現地に到着して、玄関の戸を開けました。
……固まりました。
残置物が床から天井近くまで積み重なり、いわゆる「猫屋敷」の痕跡がそこかしこに残っていました。 においも、なかなかのものでした。期待値が高かっただけに、落差でくらっとしました。
ただ、冷静に建物を見てみると、骨格はしっかりしています。大型物件ですから、丁寧に使われていた時期もあったのでしょう。「もったいないな」という気持ちと「これは大変だな」という気持ちが同時に来る感じでした。
残置物と猫屋敷:費用感を頭に入れておく
空き家を見ていると、こういう「中身がそのままの物件」はけっこう出てきます。残置物の撤去費用は、規模によって数十万円から100万円を超えることも珍しくありません(執筆時点の目安。実際には個別見積もりが必要です)。
猫屋敷状態だった物件は、それに加えて消臭・クロスの全面張り替え・フローリングの交換といった費用も乗ってきます。「リフォームが必要なのはわかっていた」としても、その金額がリアルになったとき、計画の組み直しが必要になることがあります。
でも今回の本当の問題は、そこではありませんでした。
本当の問題は、においでも残置物でもなかった
「残置物と消臭はお金で解決できる。気合いを入れて見積もりを取ろう」──そう思っていた矢先に、核心が出てきました。
この物件、持ち主が亡くなっており、相続の手続きがまったく済んでいませんでした。しかも相続人と連絡がつかない状態。
はい、ここで完全に詰みました。「まいったな」と、思わず天を仰いだ気持ちです。
「相続が済んでいない」とは何を意味するのか
不動産は、所有者でないと売却できません。持ち主が亡くなった場合、「誰が所有者になるか(相続人の確定)」→「相続登記(名義変更)」を済ませてはじめて、売る権利が生まれます。
さらに相続人が複数いる場合、原則として相続人全員の同意がないと、売却の話は前に進みません。一人でも反対すれば、または連絡がつかなければ、取引は始められないのです。
今回はまさに「連絡がつかない」状態でした。こちらがどんなに「買いたい」と思っていても、売る権利を持つ人が整っていなければ、取引は成立しません。物件の良し悪しより前の問題です。
なぜ地方の空き家は「相続未整理」が多いのか
正直、これほど複雑な相続案件に自分でぶつかったのは初めてでした。ただ、地方の空き家を見ていると、この手の物件が本当に多い。なぜそうなるのか、よく聞くパターンをまとめると以下のようになります。
放置が長期化するパターン3つ
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相続人が遠隔地にいてそのまま放置
子どもや親族が都市部に移り住んで、実家を「いつか何とかしよう」と先送りしているうちに、数年・数十年が経過する。 -
相続人同士で話が進まない
仲が悪い・疎遠・誰が主導するか決まらないなどで、合意形成ができないまま塩漬けになる。 -
相続人が増え続けて収拾がつかなくなる
放置しているうちに相続人自身も亡くなり、さらにその子どもたちへと権利が分散する。10人・20人規模の合意が必要になることも珍しくありません。
2024年から相続登記が義務化されたが……
こうした「持ち主がわからない不動産」を減らすため、2024年4月1日から相続登記の義務化が施行されました。相続を知った日から3年以内に登記申請をしないと、過料の対象になります(出典:法務省、執筆時点)。
ただ、これまで長年放置されてきた物件が一夜にして解決するわけではありません。義務化以前に生じた未登記も対象にはなりますが、実態としては整理に時間がかかる物件がしばらくは残り続けます。館山に限らず、地方で空き家を探すとこの問題に出くわす頻度はまだ高いと覚悟しておいた方がいいでしょう。
空き家を探す人が内見前後に確認すべきこと
私のしくじりから、一点だけ強調させてください。
間取りや立地より先に「誰が売る権利を持っているか」を確認する。
これを早めにやるだけで、今回のような「行って帰ってきただけ」の結末を避けられることがあります。具体的には以下の点です。
権利関係チェックリスト(内見前後に確認)
- [ ] 登記簿上の所有者が誰か(法務局で登記事項証明書を取れば確認できます)
- [ ] 所有者が亡くなっている場合、相続登記が完了しているか
- [ ] 相続人が複数いる場合、全員が売却に合意しているか
- [ ] 空き家バンク経由の物件か、個人的な紹介か(後者は権利関係が未整理のまま来ることがある)
館山市は令和5年(2023年)8月から館山市空家バンク制度をスタートしており、自治体や宅地建物取引業者が関与した物件を扱っています。バンク経由の物件は、個人紹介より権利関係が整理されているケースが多い傾向があります(ただし個別確認は必要です)。
なお、相続が絡む物件の具体的な手続きや解決策は、司法書士・弁護士・地元の宅地建物取引業者といった専門家の領分です。「気になる物件があるけれど相続が絡んでいそう」という場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
館山の好立地7LDK物件は、私にとって「いい物件」でした。でも「相続未整理 + 相続人と連絡がつかない」という一点で、完全に「買えない物件」でもありました。
空き家・古民家探しって、建物の状態や立地に目を奪われます。でも、その手前にある「権利関係」こそが、取引そのものが成立するかどうかを決める。自分で物件を何度か売り買いしてきた私でも、ここでこんな形で詰まるとは思っていませんでした。いやはや、地方の空き家探しは本当に一筋縄ではいきません。
次こそは、はりきった気持ちに見合う結果を持ち帰りたいものです。
よくある質問(FAQ)
Q. 相続人と連絡がつかない空き家は、購入できますか?
原則として、すぐには購入できません。売る権利を持つ相続人の確定と、相続登記の完了、そして相続人全員の売却合意が必要です。相続人が不明・行方不明の場合は、家庭裁判所で不在者財産管理人の選任などの手続きが必要になることもあり、解決まで年単位かかるケースがあります。詳細は弁護士・司法書士にご相談ください。
Q. 空き家の残置物の撤去費用は誰が負担しますか?
売買契約の取り決め次第です。「現状引き渡し(残置物そのまま)」として安価で売られることも多く、その場合は買主が撤去費用を負担します。規模によっては数十万〜100万円超になることもあるため、購入前に見積もりを取り、総費用に組み込んで判断することが重要です。
Q. 猫屋敷物件のリフォーム費用はどのくらいかかりますか?
一般的な残置物撤去に加え、消臭・クロス全面張り替え・フローリング交換などが必要になるため、通常のリフォームより費用は上振れします。物件ごとに状態が異なるため、リフォーム業者による現地調査と見積もりが不可欠です。
Q. 相続登記の義務化で、未整理の空き家はなくなりますか?
2024年4月に施行されましたが、これまで放置されてきた物件がすぐに解決するわけではありません。制度は長年の未登記問題を減らすための第一歩ですが、実態として整理に時間がかかる物件はしばらく残ります。最新情報は法務省や地元の法務局でご確認ください。
Q. 空き家バンクと個人紹介の物件、どちらが安心ですか?
一般に空き家バンク経由の物件は、自治体や宅地建物取引業者が関与しているため、権利関係が一定程度確認されているケースが多いです。個人紹介の物件は条件が魅力的でも、権利関係の確認が不十分なまま話が来ることがあります。どちらの場合も、購入前に登記事項証明書を取得して権利関係を確認することをおすすめします。

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